立ち位置

06/07日、勤めている劇場で行われるミュージカル、マイフェアーレディーを見させてもらいました。こちらに来てから3度目の観劇です。一度目はオーケストラのシンフォニーで、2回目はオペラで、アメリカ人の新作で「ザ・ボヤージュ」という作品。そして今夜のミュージカル。彼はシンフォニーでは舞台の右端の一番後ろ、コントラバスの1番です。オペラやミュージカルだと舞台下、オーケストラボックスの右側だったり正面の奥だったりで演奏をしています。彼の仕事を見るのは今回が初めてのこと、そして彼は来年の春のシーズンを最後に定年で引退をする予定です。来年、再度訪問すればまた舞台を見ることができるかもしれませんが、たぶん彼の本番を聞けるのは最後のチャンスだったと思います。

彼がドイツに来たのは25歳。ケルンの大学で語学を学び、同時に楽器のレッスンを受けながら各地のオーケストラのオーディションを受け、熱心に就職活動をしてました。しかし適当な就職先がなく、数年が過ぎ、母からの仕送りももうぼちぼち終わりになるという28歳の年に、この町の劇場、オペラハウスのオーケストラのオーディションに合格し、ここに職を得ました。以来、35年、この町で生活し生きてきました。聞けば彼がこのオーケストラでは最長老、一番長く勤続しいる楽団員だそうです。前回の演奏の時に、隣で演奏していたのは、彼がこの町に来てから楽器を教えた弟子だと言っていました。いろいろ話を聞いていると、この町に溶け込んで生活をしている様子がよく伝わってきます。もちろん団員の方々とのお付き合いがほとんどだと思いますが、同じマンションに住む人とか消防士の人だとかたくさんの人たちと関わりながら生活を築いてきたことがわかります。35年、大きな病気を経験し、長い入院生活の折には3か月近くの間、母がこちらで生活をしていたこともありましたし、他にも実にいろいろなことがありました。

この町で今の生活があるのは大変な努力の結果だと思います。彼はよく頑張ってここまで来ました。その結果が今の彼の立ち位置を作っているのだと思うと、すごいことと感動する思いがあります。

10年前によき伴侶を得て、2年後には子供にも恵まれ、そして今、とても幸せな時を過ごしているようです。